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Microsoft Research でサマーインターン

ポイント

情報系の学生は Google にインターンシップ制度があることはよく知られていますが、Microsoft にもインターン制度があることを知っている人は少ないです(自分も知りませんでした)。一つの理由としては日本での大学関係は Microsoft Research Asia という北京にある研究所が担当しているので、あまり日本での後方に積極的ではないことがあるかもしれませんが、後で述べるように、研究レベルやオープンさという意味では Microsoft Research ほど開かれたところは見たことがありません。そこで、この文書では日本から直接 Microsoft Research のインターンに応募した経験を元に、他の人も同じように世界中の研究者が集まる環境で過ごしてほしいと思い、書くことにしました。個別の質問がある人はぜひメールください。

出会い

自分が Microsoft Research のインターンシップのことを知ったのは、現在 Microsoft Research の自然言語処理グループで研究員をしている鈴木久美さんから、自分の所属する研究室の松本先生に、「Microsoft Research でインターンを募集しているので、日本語処理に興味がある人は応募してほしい」と案内が来たのが学生に転送されたからでした。かくいう自分もその年は南カリフォルニア大学でのインターンシップか Google でのインターンシップが本命だったので、書類は応募しましたが、返事が全くなくてもそこまで気にすることなく過ごしていて、あとで先生が鈴木さんに直接会ったときに聞いてくれて、実は担当者が履歴書に目を通していなかったことが分かった、なんてことがありました。

ここでアメリカでのインターンシップについて簡単に説明すると、アメリカはほとんどの大学で8月末から9月にかけてが新学期なので、夏休みに当たる5月から8月くらいまで、3ヶ月間企業でインターンをする、ということが盛んになっています。特に就職や研究に熱心な人は、企業でインターンをしたということがとても大きなアピールになるため、毎年別のところのインターンシップに行ったり、人によってはひと夏で2つも3つもインターンシップをはしごする人までいます。日本でも一部の研究所は世界中から学生を受け入れていますが、アメリカやカナダは大学・大学院にそもそも世界中の学生が入学してくるので、北米の学生だけ集めてもほとんど留学生だったりします。

アメリカの情報系の大企業(Google, Microsoft, IBM, Apple, ...)であれば、どこに行ってもだいたいすごくいい待遇だと言われていますが、Microsoft もそれに漏れず待遇はよいです。特に Microsoft Research は Microsoft のインターンの中でも優遇されています。

インターンシップでする内容は、結局はマネージャの人と相談して決めることになるわけですが、Microsoft Research の人は研究職としてのインターンなので、研究に関するテーマが設定されることになります。

挑戦するテーマは人によっては既存のプログラムの拡張だったり、すでに動くことが分かっているものを別のデータに使ってみたり、という感じで最初からやることが決まっていることもありますが、全く新しいテーマで試行錯誤することになる人もいます。ただインターンシップでは期間が短いので、自分で一から全部やるとまず時間が足りなくなって振るわない成果になりがちらしいので、たとえやることが新しいことでもグループのほかの人に「こんなことをしたいのだが、そういうプログラムはもう誰かが持っていないか」とか、「こういうことのやり方がわからないのだが、誰か詳しい人知らないか」などと、他の人の手助けを借りることが不可欠です。大学で研究しているとインターネットで拾ってきたプログラムを参考にしたりできますが、企業ではそういうことは許されていないことが多いので、まずは中の人で持っている人がいるかどうか確かめることが必要です。

Microsoft Research のインターンは Microsoft のインターンと違い、研究志望で来ている人がほとんどなので、だいたいが大学院生、そして年齢もメインキャンパスのインターンと違って少し高めです。

研究結果はオープンにすることが強く推奨されているので、インターンシップの最中に論文を書いたり、インターンシップが終わってから論文をまとめて国際会議に投稿したり、ということが盛んに行われています。自分も滞在中にインターンシップの成果をまとめて国際会議に投稿しましたが、ほとんどの人はインターンシップ終了後に論文を書くそうです。シアトルにいる間は実験をすることができるのですが、帰ってしまうともう実験できなくなってしまうので、いる間にできるかぎり実験をしておいて、帰国してからまとめるというのがいいのかもしれません。

応募から採用まで

インターンシップの応募期間はだいたい年明けから3月までです。しかしながら、夏のインターンシップはだいたい1月末で締め切ってしまうので、その年にインターンをしたい人は1月中旬までには願書を送りましょう。正月明け早々送るくらいでちょうどよいです。また、受ける企業の人に知り合いがいる場合は、願書を送ったらメールで送ったことを伝えましょう。人事は大量の応募書類を受け取るので、なにもしないと埋もれ、放置されます。中の人に「こういう人が応募したから見てほしい」と連絡してもらうのは非常に重要です。そういうコネがあるかどうかでインターンシップに行けるかどうかが大きく左右されますので、行きたい人は日頃から海外の企業・研究員の人たちとコンタクトを取りましょう。

意外と見落としがちなのが履歴書(cv, resume)の作成時間です。すでに1回英文履歴書を書いたことのある人なら手直しの時間はかかりませんが、まだ書いたことがない人は1週間くらい作成に時間がかかる(集中すれば1日で終わるでしょうが)と思って、1週間かかる覚悟で年末から用意してください。ちなみに自分の履歴書サンプルはこんな感じです。リサーチインターンであれば履歴書は長くなる傾向がありますが、開発へのインターンシップであれば2ページ程度がいい(長すぎても読まない)そうです。Google のサマーインターンシップ用の英文履歴書サンプルも参考になります。

応募が完了して電話面接の手配がスムーズに進むと(ここですぐに連絡が来ないとアウトです)、電話面接の日程をお互い調節し、面接の運びとなります。日本とアメリカでは時差があるので日本的には早朝-昼の時間になることが多いと思います。

電話面接は企業にもよりますが、1時間くらい話します。プログラミングしたり(アルゴリズムの概要を口頭で伝えて、動くコードはメールで送ったり Google Docs に書いたり)、研究内容について説明したり、雑談したり、なぜ応募しようと思ったのか、採用されたらどんなことがしたいのか、なんかを聞かれたり。アルゴリズムは簡単なものしか出ませんが、なめていると解けなかったりするので、不安な人はデータ構造とかソートとかのアルゴリズムが載った情報科学の教科書的なもので復習しましょう。

注意点としては、電話面接は長いですし、基本的に対面で英語の会話をするときは身振り手振りや顔色で意味が伝わることも多いですが、電話だと非常に英語が聞き取りづらく、また、相手にも通じにくいです。そのため、携帯電話や PHS を使っている人は、音質がよくないので、固定電話にかけてもらうようにしたほうが絶対よいです。大学院の人は研究室で徹夜するつもりでもいいので、研究室の固定電話にかけてもらいましょう。これだけでだいぶ違います(実際このアドバイスは Google を受けた先輩からのアドバイスでしたが、自分も従ってよかったと痛感したので、ここでも繰り返しておきます)。

電話面接が終わったら、面接してくれた人か、面接をセッティングしてくれた人に軽くお礼のメールをしましょう。いい感じだったら数日以内にオファーのメールが来るはずです。インターンシップの期間とその間の待遇(お給料など)が書いてあるので、OK であればここからビザの発行や飛行機のチケットの手配などの事務手続きに進んでいきます。

MSR はリサーチインターンなので基本的にはドクターの人(つまり応募時に M2 以上)が対象ですが、Google の場合はエンジニアのインターンなので学部生でも OK です。Google 日本に応募すると、以前はアメリカに行けたのに、最近は日本でのインターンになってしまっているようです。アメリカでしたい場合はアメリカの Google に直接応募しましょう(NAIST からひとりそうしてマウンテンビューに行った人がいます)。1つだめでも次のところに、ある年がだめでも次の年に、積極的に挑戦しましょう!

ビザ

アメリカで働くに当たって問題なのはビザです。アメリカに留学している人は違うビザなのですが、日本から直接インターンに行く人は J-1 ビザを取得することになります。J-1 ビザは Microsoft の legal 担当の人が受け入れ書類を発行してくれないと申請できないので、送ってくれなさそうならメールで催促してください。

自分はまず4月から行くつもりでビザの書類を送ってもらったのですが、その後5月から行くことに変更したとき、向こうの担当の人の忙しい時期に当たってしまったせいか、1ヶ月以上メールの返事もくれないことがあって、ビザ発行が間に合わず出発が2週間延びました。結局ここで延びたおかげでいちばんシアトルのいい時期に行くことができたので結果的にはよかったのですが、働き始めてから1ヶ月してまたビザの延長書類を書いて申請しなければならなかったので、割と面倒でした。これから行くつもりの人は最初から5月の中旬くらいに行くつもりで願書を書くといいと思います。

研究テーマ

到着すると会社がアパートを用意してくれているので、3ヶ月はそこに住むことになります。車の希望を出したらキャンパスから少し離れたところ、出していなければ徒歩で行ける圏内のところを斡旋してくれます。行くだけでその日から泊まれるので、海外から来る人は便利だと思います。

初日はまずインターンのオリエンテーションがあります。有名な大学出身者が愛校心を示すために自分の大学の校歌を歌ったり、いかにこの会社で働くのがチャレンジングか社員の人が話してくれたりと、ああ、これがアメリカなのかぁ、という洗礼を受けます。午後はリサーチインターンの人だけは本社勤務の人と別れて研究所に案内され、研究所でメンター(身の回りの世話から研究の面倒を見てくれる人)をしてくれる人と昼食を取ります。こんな感じで1週間目は計算機の設定をしたりして過ぎていきます。

2週目から3ヶ月の間にどんなことをするのか詰めていきます。最初からやってほしいテーマがあってインターンを呼んでいる場合はすんなり決まることもありますが、データはあるんだけどなにができるか分からない、という場合はまずサーベイから始まります。自分は後者のケースだったので、最初の1ヶ月くらいどんなことができるか、どんなことをやるかで費やしてしまいましたが、メンターの人と2人で試行錯誤したのはいい思い出です。世界レベルの人はこんな視点で研究のネタを考えつくのか、と参考になりました。

研究テーマが決まってくるとしばらく予備実験をしたりします。そして大体1ヶ月から2ヶ月の間に mid-internship presentation という形でプレゼンテーションをします。結果が出ていなくても全然かまわなくて、どんなことをやるのかグループの人に知ってもらう、という意味でのプレゼンテーションです。有益なコメントをもらえるいい機会なので、しっかり準備して望みましょう。

Reading Group

そんな研究活動と並行して、毎週・隔週でさまざまな読書会(reading group)が開かれます。社内の誰かが持ち回りで話すことが原則ですが、社外から講師を招くこともあります。また、毎週1回社外の研究者を招いて招待講演をしてもらいます。Google での talk は技術的なものが多いそうですが、Microsoft Research での talk はほとんどが研究のもので、その分野でのトップの国際会議で話す内容を2つか3つくらいくっつけたような内容を話してくれます。Microsoft がすごいと思うのは、日本にいるとわざわざ毎年お金を払ってこういう国際会議を聞きに行かないと流行にも乗り遅れますが、Microsoft にいると毎週世界中の研究者の人が自分から話しに来てくれるので、どこに行かないでも世界レベルの研究に常に触れていることができる点です。これは北米圏に住んで研究できるかどうかというだけで日本人はものすごく差がついてしまっているのではないかと思うくらいでした。

それとは他に、有名な国際会議が開かれると、その国際会議で自分が興味を持った論文を数本ピックアップしてお互い紹介しあうような会も頻繁に開かれます。また、大きな国際会議の前には口頭発表でもポスター発表でもグループ内で発表練習が開かれます。SIGIR という検索の国際会議の前には、世界中にある Microsoft の研究所の全部の人が参加できるように、ということで、朝9時から夕方5時までずっと発表練習が途切れなくあり、こんなに発表する人がいるのか、と目を丸くしました。

論文紹介においても、自分のいまいる研究室では半分くらいは英文和訳になってしまうきらいがありますが、こちらの論文紹介は研究の概要とキモの部分をざっくり説明して、それではこの論文に書いてある手法をどのように自分の研究に使うか、なんてことを侃々諤々議論したりするので、そういう意識で他人の論文を見ていなかった自分にとっては非常に刺激になりました。

Intern Social

楽しいのは研究だけではありません。会社側が企画してくれる懇親会のようなイベントも隔週くらいでありますが、毎日のようにインターン各自が企画するゲーム大会や映画鑑賞、観光など目白押しです。たぶん全部出ようとすると全く仕事ができないでしょう(笑) よく遊び、よく働くというのが徹底しているように思います。シアトルなので無料でマリナーズの試合を見に行くこともできます。40乗りくらいのバス3,4台で Safeco Stadium に向かう姿は壮観でした。野球のルール知らないって人も(アメリカではそんな野球はメジャーでないので)珍しくないですが、そんな人たちも含めてみんな盛り上がりますね :-)

自分は日本から来たのですが、アメリカでも MIT, ハーバード, CMU, イリノイ大学アーバナ・シャンペーン, UC Berkeley, Rochester などそうそうたる面々がインターンとて来ているので、世界の頭脳とはこういうことか、と衝撃を受けます。トップレベルの会議に年間3本出すようなすごい人もごろごろいて、自分は果たしてここにいていいのだろうかと自問自答するくらいでした。

MSR では月に1回くらい "Icecream Social" と題してインターンが集まって無料でアイスを食べながら歓談する場所を提供してくれたりするので、そういう集まりで他のリサーチインターンと仲良くなることができます。リサーチでないインターンはほとんど学部生なので、話題があまり合わなかったりして、自分はあまり行きませんでした。

ここで出会った友人たちは、分野こそ違いますが、MSR はインターンしに来た人たちのうち8割くらいは MSR に就職するらしいので、今後自分がここに就職することがあればまた会えることでしょう。また、研究をがんばって国際的にハイレベルな会議に通せば、みんなも同じ会議の常連だったりするので、研究者を続けていれば同じ分野のインターンならどこかで再会できると思います。

Final presentation

インターンシップの期間が終わりに近づくと、最後の成果報告をする必要があります。最後の成果報告はグループの人の前でプレゼンテーションするのが必須です。いつも自分の研究室で発表するのと基本的に変わりませんが、アメリカではこういう発表会のときには発表者がクッキーやケーキ、コーヒーやお茶を振る舞う習慣があるらしく、自分はメンターの人に用意してもらいました。(飲み物は社内全域でフリードリンクなので用意しなくていいのですが、チャイを用意してもらいました(笑))

インターンシップの成果は外部の国際会議で発表することが強く推奨されますが、インターンシップ中は実験に集中して、国際会議の論文を書くのはインターンシップ終了後にすることが一般的だそうです。自分はインターンシップの仕事は帰国してからはやりたくなかったので、がんばってインターンシップ中に書きましたが、最後の2週間はそういうわけでだいぶ大変でした。でも毎日論文を真っ赤になるまで添削してもらったのはいい勉強になりました。

結局ここで投稿した国際会議論文は無事採択されました。同じ内容で日本に戻ってきてから研究会で話し、論文誌にも投稿しました。たった3ヶ月の仕事でしたが、日本にいたら3ヶ月集中してこれだけがんばれなかったと思いますし、大学にいたら休日もなく実験している感じですが、研究所だと午前10時くらいに会社に行って午後7時くらいに帰る生活で、土日は完全に会社にも行かず自由に過ごしていて、それでお給料までもらえていたので、天国のような感じでした。

生活

最後に生活についてまとめますが、シアトルは日本人が割と住んでいるようで、アジアの食材が売っているスーパーも近くにあり、食事については自炊する人はあまり困らないと思います。外食しようとする人はちょっと選択肢がないかもしれません。安いものはピザくらいで、それ以外はお金を出せばおいしいものが食べられるけど、普通の値段のものはあまりおいしくないし、安いものは基本的にまずいです。お昼はグループの人や他のインターンと喋るので社員食堂を使っていましたが、どうもアメリカの人はお昼がっつり食べる人は少なくて、スープとパンだけとか、もしくはサラダだけって人もかなりいました。「社員食堂で食べちゃダメよ、高いしまずいし」とはよく言われたことです。

インターンシップの最中、住まいは提供されますが、足は自転車か自動車かの選択制です。自動車の場合はレンタル代金の一部を補助してくれます。自転車を選択しても合計8回までは無料でレンタルさせてくれるので、ときどき旅行するときに使いたいだけなら自転車でもいいと思います。ただ、自動車がないとかなり不便なので、もし自分がもう一度行けるなら間違いなく自動車を借りると思います。国際免許証は免許更新場に行って数千円払えば窓口で当日作ってくれるので、自動車に乗る人は取得しておきましょう。

お給料は働き始めた週のオリエンテーションで銀行口座を作るので、その口座に2週間ほどしてから振り込まれます。たぶん日常生活では使い切れないくらいの金額毎月2回振り込まれるので、日本からはせいぜい1ヶ月分のお金だけ用意していけばよいです。都市銀行であればインターナショナルキャッシュカードを発行してくれて、1回あたり数百円の手数料で世界中どこの ATM でも現地通貨で引き下ろせたりするので、お金を大量に持ち運ぶのが怖い人、もしくは単に面倒くさい人は最低限のお金(タクシーもクレジットカード使えますが、まあタクシー代くらい?)だけあればいいんじゃないかと思います。

まとめ

Microsoft Research というアメリカのシアトルにある研究所でインターンシップをした経験についてまとめました。研究者になるつもりの人は世界レベルの研究所の空気に触れるのはとてもいい経験になると思います。数ヶ月のサイクルで国際会議に研究成果を出していくというのが当たり前というのはすごいです。特に情報系で研究者を目指すみなさんにぜひお勧めします。